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亡くなった猫のあけた心の穴を埋めてくれる子猫との出会い

初めて家族になった猫・ハルが、難病を患いわずか生後6カ月で亡くなってからというもの、猫を見るのが辛く、猫嫌いになってしまった。しかし、猫があけた心の穴を埋められるのは唯一、猫だけ。



「猫なんか、二度と飼うもんか」。そう思っていたはずだったのに…。やっぱりどうしても猫と一緒に暮らしたかった。亡くなった猫・ハルに会いたくてたまらなかった。そんな中、ひょんなことから出会った子猫が私の家族になった。名前は、リク。猫ミルクをあげたり、トイレのお世話をしたり、一緒に遊んだり。そんな当たり前のことをするのが本当にうれしかった。

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少しずつ、先代のハルを失った悲しみが癒やされてゆく中…まさか我が家に3人目の猫が来るとは予想だにしていなかった。

先代の猫にそっくりな子猫を見つけた

2011年の秋のこと。近所にあるかなり大きなペットショップに立ち寄った。新しくやってきた2代目である猫・リクのためのゴハンや猫砂、おもちゃなどを買うためだった。このオヤツは食べてくれるかな、このおもちゃは気に入ってくれるかな、など1時間ほど楽しく悩んで買い物をした。一通り清算を済ませて店を出ようとした瞬間、後ろから視線を感じた。

振り返ってみると、展示ケースに入った小さな子猫がカリカリカリカリとゴハンを食べながらなぜか私を見ていた。目が合った瞬間、すさまじいほどの懐かしさに襲われた。

亡くなった先代の猫・ハルにそっくりな模様だったのだ。毛の色は異なるが、額にある「M」のような模様がハルを彷彿とさせた。なんとなくハルが帰ってきたようでちょっと目が潤んだ。重たい荷物を持ちながら、15分くらいその子猫のケージの前で、その子の顔を眺めていた。

その時、ハルが亡くなってから約半年経っていた。時間が経つにつれて辛かったのは、少しずつハルのことを忘れそうになるということだった。甘えてくるときの仕草、ご飯を食べるときのほっぺたの動き方、一緒に遊ぶ時のうれしそうな表情、抱っこをせがむときの声…。においや感触、声や仕草が記憶の中から少しずつ無くなっていくのはキツかった。

そんな時に見つけた、ハルそっくりの小さな猫。その子の全てが何もかも亡くなったハルに見えて、しばらく無言のまま立ち尽くした。

帰宅して、リクを抱っこした。あたたかくて柔らかくていい匂いがした。膝に猫のお尻があたって、じんわりと体温を感じた。

死ぬほど悩み抜いた

次の日も、その次の日も、仕事を終えて家に帰る途中、そのペットショップに足を運んだ。見れば見るほど、先代のハルを彷彿とさせる猫だった。

猫は、亡くなると一旦天国に行って、そこで別の毛皮にお着替えをし、また生まれ変わって現世に戻ってくる…なんていうちょっぴりいい話があるが、それを思い出させる程その子猫はハルによく似ていた。

毎日通ううちに、「この子を、今いる猫であるリクの弟として迎えたい」と徐々に思うようになった。そう簡単なことでは決してないと思っていた。「やるべきお世話が倍になるが本当にそれは私に務まるのか」「2人に分け隔てなく愛情を注げるのか」「病気になった場合、2人の猫をきちんと適切に隔離できる住居環境にあるのか」「リク本人は嫌がったりしないだろうか」などなど…。考えるべきことはたくさんあった。何度も何度も何度も何度も検証して思考実験を繰り返し、私が出した結論は「家族として迎えることができる」だった。2人とも、必ず世界一幸せな猫にしてみせる。

「その猫ちゃん、お姉さんが引き取るん?」

お店に電話をかけて、あの子を引き取りたいという旨を伝え、2日かけてお迎えの準備をした。子猫用のフードやトイレ、おもちゃや毛布など、新しいものをたくさん購入した。その準備すらものすごく楽しかった。

お迎えの当日、お店でいろいろと説明を受けた後、子猫の健康状態を最終チェックするというので私は店内の椅子に座っていた。膝の上には、子猫用のキャリーケース。あの子とこれから毎日一緒に暮らせるんだと思うと涙が出るほどうれしかった。




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これからの日々に思いをはせていると、あの子猫がいたはずの空っぽの展示ケースの中を、一人のおじいちゃんが覗き込んでいる姿が目に入った。「猫がいないケースの中なんか覗いたって楽しくないんじゃないのか?」と不思議に思った。

そうこうしているうちに、チェックを終えた子猫がお店のお姉さんに抱っこされながらやってきた。「健康状態は良好です」との言葉を聞いてほっと一安心した。子猫をキャリーケースに入れ終わって立ち上がった瞬間、おじいちゃんが話しかけてきた。

「その猫ちゃん、お姉さんが引き取るん?」と聞かれた。そうですと答えると、「そうかぁ…毎日その子に会いにこの店に来るのがここ最近の楽しみやったんだが…」と言われた。

二代目ハルは、確かに顔がよかった。抜群の容姿をもった猫だった。正直、顔の造形だけで言えばこの子より美しい猫なんかいないんじゃないかと思うくらい可愛かった(まぁどの飼い主さんも自分ちの猫のことをそう思っているだろうが…)。

このおじいちゃんも、この子の可愛さに魅了されてたんだなと思うと同時に、なんだかおじいちゃんと子猫を引き離すようで少々バツが悪かった。最後だからと、キャリーケースの中をおじいちゃんに見てもらった。おじいちゃんは、「やっぱり可愛いなぁ」と言いながら、最後にハルのおでこをそっとなでてくれた。

お店のお姉さんには、「元気でね」と言ってもらった。少しだけさびしそうな顔をしていたのが印象的だった。

名前は、「陽」

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こうして私の家族となった子猫。つけるべき名前でこれまた死ぬほど悩んだ。亡くなった先代の猫・ハルにそっくりだったし、またハルが生きていた頃みたいに猫様に向かって「ハル君」と名前を呼びたいという気持ちがあった。

新しくやってきた猫様に、先代の猫の名前を付けるケースは非常に多いと聞く。飼い主さんも、亡くなった子が戻ってくるようでうれしいだろうし、その家で代々飼われる猫につける場合もあるのだろう。

ただ、私がこの子にまた「ハル」と付けると、なんだか今度こそ亡くなった先代のハルのことを忘れそうで怖かったのだ。「新しいハル」に夢中になって、先代のハルを思う時間が少なくなるのが怖かった。ただでさえ、ハルの仕草や匂いを忘れかけていたから。

散々悩んで、「ハル」という音はそのままで、違う漢字で名前を付けることにした。ハルと読める漢字は「春」「晴」「陽」などたくさんあったが、兄猫の名前が「陸」なので、それと対になるように「空にある太陽」という意味で、「陽」と名付けることにしたのだった。

先住猫と対面させるステップ

二代目ハルをつれて無事に帰宅した。玄関のドアを開けて中に入り、ふぅっと一息ついた。

さて、ここからが最大の試練である。先住猫である「陸」と、新しく家族になった子猫・「陽」。対面させるためには様々なステップを踏まなければならないのだった。猫と猫を対面させる場合、かなりの日数がかかるのが通常だ。

■STEP1
最初の3日ほどは、子猫と先住猫は別々の部屋で暮らすようにさせる。先住猫にストレスを与えないためだ。

■STEP2
その後、10~20日ほどかけて、猫同士をキャリーケース越し、あるいはケージ越しに5分ほど対面させる。会わせる時間は徐々に長くして慣れさせる。この際、子猫の体に触れた手で先住猫に触ることで、お互いのにおいを交換できるため、スムーズに慣れさせることが可能だ(猫が嫌がるようならすぐに中断する)。

■STEP3
さらに10日ほどかけて飼い主の立会いのもと、猫同士を直接対面させる。その際、相手の毛づくろいをしたり、同じ部屋で眠ったり、警戒せずにすれ違ったりするという行動が見られれば、合流させる。

実際に対面させてみる

STEP1を終えて、いよいよ第二段階に移行した。ケース越しにリクとハルを会わせてみたのだ。ケースの中はよく見えないものの、リクは中に猫がいるということが瞬時にわかったようだった。少しだけお互い鼻をクンクンさせた後、その瞬間はやってきた。

子猫のハルが、自分の3倍の大きさもあるリクに向かって思いっきり「フーッ」と威嚇したのだった。その瞬間、リクの顔面は崩壊。まさに「ガーン」という表情になった。


この瞬間を私は偶然にも動画におさめていた。あまりに面白い表情なので公共の場での閲覧には注意が必要かもしれない。



 

3時間後にはすごく仲良しに

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しかし、その3時間後…。なぜか二人とも「ニャーン」と甘えた声で鳴き始めた。「まさか…ね」と思いながら、抱っこされた状態のハルと床に座っていたリクをおそるおそる直接対面させてみた。

子猫を凝視するリク。鼻をピクピク動かしているハル。リクは顔を傾けて子猫に近づき…そして次の瞬間、なんとやさしく毛づくろいを始めたのだった。

対面までは何週間もかける覚悟だったが、わずか3時間で対面完了。そのあとも冷や冷やしながら二人を見つめていたが、その日も次の日もその次の日もそのまた次の日も、二人はこれ以上ないくらいイチャイチャしていた。…正直、疎外感がハンパなかった。

3人での暮らしがスタートした

こうして私とリク、そして子猫のハルの暮らしが始まった。子猫の育児は大変ではあったがとても楽しかった。あまりに楽しすぎて、子猫のハルの育児のことを毎日毎日ブログに書いた。

それと、うれしかったのはリクがとっても上手にお世話をしてくれること。毎日ハルの毛づくろいをしてくれるし、ハルの首元を咥えて自分の猫ベッドに連れて行き寝かしつけてくれるし、オヤツをあげれば自分の分をハルにあげようとするし、自分のしっぽでハルを遊ばせてくれた。本当に助かったし、見ていてほほえましかった。でもさすがに自分のおっぱいをハルに吸わせようとするのを目撃した時はちょっと引いた。

毎日が本当に楽しかった。ベッドに寝る時は左にリク、右にハルがいる状態で川の字ならぬ「小」の字で眠った。机に座って読書をしている時は、膝にリク、パーカーのフードの中にハルが眠っていた。家に帰ってくれば玄関まで出迎えてくれるし、出社する時は窓から私を見送ってくれた。

今度こそ、リクとハルの2人には元気に幸せに長生きしてほしいと思っていた。そしてもちろん、今も思っている。だから、この3人での暮らしがずっと続くと思っていた。

ところが、二代目ハルがやってきてからわずか9カ月後…私はまたもや猫と出会うことになるのだった。近所のゴミ捨て場で死にかけていた小さな小さな捨て猫。この猫こそが、何を隠そう先日ネットで一世を風靡したあの「ケツドライヤー猫」なのだった。(続く)



 

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猫なんか、二度と飼うもんか -4- fin

【その5へ続く】