猫嫌いだったハズが…今では猫にメロメロ
私は猫が大大大大嫌いである。正確に言えば、大大大大嫌い「だった」。身の毛もよだつほど、猫が嫌いだった。写真や動画ですら猫の姿なんか見たくないと思っていた。そんな猫嫌いの私が、何故か今では2人の天使のような猫たちと暮らしている。「こ ん な は ず で は」と思う一方で、「猫と暮らしていなかった当時の私は、猫ナシでどうやって生きてきたのだろうか」と思うくらい、猫がいなくては生きていけない体になっている。
うちの子が大好きすぎて、猫の漫画まで連載するようになった。土日はどこにも外出しないし、給料日には何か必ず猫にプレゼントを贈ることにしている。「一緒にいてくれて、ありがとう」という気持ちを毎日絶対に伝えるようにしている。
今ではすっかりただの猫バカと化した自分だが、何故、私が過去に猫嫌いになったのか。それは、一人の猫との別れによるものだった。
猫の魅力に気づいたのは3年前
2010年7月、当時私は大学院生だった。研究づくめの毎日。辞めてやると思った回数はもう100万回を超えていただろう。もちろん研究の楽しさに魅了されてはいたのだが、あまりの忙しさに体重は11キロも減り、もう限界が訪れようとしていた。学費は自分で払っていたので、フルタイムの正社員の仕事もこなしながら、の毎日だった。しかも、勤めていたのは絵に描いたようなブラックな会社。ストレスを忘れられるのは、唯一、酒を飲んでいる時だけ。一時期、私のあまりの飲みっぷりを見て、周りの人たちは「ザルというよりむしろ枠」と言っていた。
そんなある日、大学院の友人と宅飲みをした。友人の実家は高知県にあり、実家には何匹もの猫達が一緒に暮らしているそうだ。あまりに過剰なストレスを、消化しないまま抱え続けていた私は、友人宅の猫の写真を見てとても癒やされた。もっと写真はないのか、動画は無いのかと詰め寄ったのを覚えている。友人は苦笑いしていたが、たくさんの可愛らしい猫画像を私にくれた。「猫って写真だけでこれほどまでに人を癒やせるのか」ととても驚いた。
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それからしばらくは猫の写真を見て過ごした。あまりに可愛くて、見るたびに顔がにやけた。半月ほど経ってようやく、「猫と暮らしたい」という自分の気持ちに気がついた。
迎えた猫を、世界一幸せな猫にできるのか?
そこからは何度も何度も思考実験を繰り返した。飼うからには、必ず、必ず世界一幸せな猫にしたい。まさか「かわいいから」なんていう理由だけで、生き物を引き取るわけにはいかない。病気になったらどのくらいお金がかかるのか、良質な食事を用意するためにどんな知識が要るのが、適切なお世話を本当にできるのか、コミュニケーションをとる時間は作れるのか、最高の環境を提供するために学ぶべきことは何か、そのために今自分に欠けている技能・知識は何か…。
「猫の飼い方」系の本を買うこと実に50冊。最低限必要な知識と心構えを身に付けた私は、ついに「猫と一緒に暮らせる」という結論に至ったのだった。
里親募集の猫を家族に迎えたかったが・・・
最初、里親さんを募集している猫ちゃんを引き取りたいと考えていた。しかしながら、当時私は「独身」で「一人暮らし」の人間(いや、今もそうだが)。一人暮らしというだけで断られること19回。あっけなく断念した。
しかしながら、今でも思っているが、条件が厳しいことはとてもいいことだと思う。今保護されている猫の幸せを心から願ってのことだ。手当たり次第に譲渡してしまっては、虐待される危険性もかなり高くなるだろう。条件の厳しさは、愛の証だ。
一生をかけてお仕えしたい猫様に出会った
ということで、ブリーダーさんから猫を迎えようと思った。ブリーダーさんから引き取るとなると、候補としての猫はかなりの数になる。どんな猫と暮らしたいのか、自分はビジョンを持っていなかった。なぜなら、一緒に暮らしたらどんな性格、どんな柄の猫ちゃんだろうと、世界一かわいい我が子になるだろうと思ったからだ。
とりあえず全部写真を見てみようと丸一日かけて写真に目を通した。あれこれ悩むかと思ったが、すぐに決まった。最後の写真まで目を通さずに決まった。39番目に見た写真。その猫に一目ぼれした。
青い目、シマシマの模様、白いあんよ、ピンクの鼻。…天使だった。「この猫様に一生をかけてお仕えしたい」と心の底から思った。(後に開設する猫ブログの名前はNumber39であるが、その由来はここから来ている。39番目に見た猫だからだ)。
もう残りの写真はみなかった。この子と一緒に家族として生きていこうと決めた。2010年11月14日の午後6時のことだった。
名前は、ハル
猫と一緒に暮らすことになったら、つけたいと思っていた名前があった。それが「ハル」。明るくて優しい響き。この子にぴったりだと思った。ハルと一緒に暮らす日々を思い浮かべて、本当に心が躍った。
その猫ちゃんを迎えに行くのは11月19日だった。その日を楽しみに、いろいろと準備をした。あの子が使うお皿、トイレ、毛布、おもちゃ、首輪、ごはん、猫砂、色々なものを買った。これは気に入ってくれるかなぁとか、この色は似合うだろうなぁとか、考えるだけで本当に楽しかった。
楽しみで楽しみで仕事中も研究中も、ずうっとハルのことを考えていた。ハルを迎えに行くまでの4日間、ブリーダーさんにもらったハルの写真を見ながら毎日を過ごした。
お店に迎えにいく
ハルがいたお店は、駅から歩いて10分ほどの距離にあった。ドアをあけると、カランカランと音が鳴る。それを聞きつけて、店の奥から黒髪でショートカットの若い女の人が出てきた。挨拶をし、自分の名前を告げると、「あ、今日猫ちゃんをお迎えにいらっしゃる方ですね~」と言われ、彼女はまた店の奥にひっこんでしまった。
しばらく店内にある猫のおもちゃを眺めていると、同じ女の人がでてきた。「この子ですよね?」と、片手に何かを乗せていた。小さな猫だった。
お姉さんの手のひらでちょこん、と座っていたのはハルだった。写真で見たよりもずっと可愛かった。興奮しているのかしっぽをピンとたてて、まん丸の目でこちらを見つめていた。
「この子です」というと、お姉さんはもう一度ハルを連れて店の奥にいき、「ちょっとお手入れしますね~」と、別の店員さんにハルを手渡した。ハルは爪切りとかブラッシングをしてもらっていた。
その間私は、お姉さんにいろいろと質問をした。この子はどういう性格なのか、ご飯は何が好きか、どの程度離乳しているのか、普段の運動量はどのくらいか、ここ一週間の体調はどうか、好きなおもちゃはあるか、などなど。
かなり大量の質問だったが、お姉さんは丁寧に丁寧に答えてくれた。そうこうしている内に、お手入れが終わり、ハルがやってきた。さっきより顔や毛並みがきれいになっていた。
「じゃあ連れて帰ります」と言うと、お姉さんはハルをそっとキャリーケースの中に入れた。キャリーケースの中には、ハルが寒い思いをしないよう、猫用の毛布とハンカチでくるんだホッカイロが入れてあった。それと、退屈したときのために猫じゃらしも。ケースに入ったハルはきょとんとしていた。
今までハル君を育ててくれたお姉さんに、最後にハルの顔を見せてバイバイをした。お姉さんは店を出た後もずっと手をふっていた。育ててきたどの子たちも大好きなんだろうなぁと思った。店の外にでるとびっくりするくらい良い天気で、キャリーの中でハルはちょっとだけ目を細めた。
自宅に到着。ためらいなくキャリーから出る猫
自宅に到着したとき、すでに午後4時になっていた。家のドアをあけ、部屋に入ると、ここでハルが初めて鳴いた。小さくて本当にかわいい声だった。
いよいよキャリーケースからハルを出す瞬間がやってきた。めちゃめちゃ緊張した。猫は警戒心が強い生き物。初めて訪れた場所で、キャリーケースから自発的に出てくることは、まずない。辛抱強く、出てくるのを待たなければならない。
無理やり出すのは絶対にダメということは知っていたし、そんなことはしたくなかったので、とりあえず部屋の隅にキャリーを置き、しばらくキャリーの出入り口を開けっ放しにして放置しようと思った。キャリーの中でハルはニャーニャーと鳴いている。もしかしたらお腹でも空いたのかな、水を飲みたいのかなと思い、彼をびっくりさせないよう静かにキャリーを開けた。
ハルはぴゅーん、と何のためらいもなくでてきた。出てくるのに1秒かからなかった。
人懐こすぎる猫に驚愕した
「この子、本当に猫なのか?」と思うくらい警戒心のない猫だった。しばらく様子を見たが、変に興奮してたりだとか、おびえていたりだとかいうことはないと判断。ほっと一息ついた。お店のお姉さんにも、「新しい環境に慣れる大事な時期ですから、うちについてから最低一週間は、猫ちゃんには触らないようにしてください」といわれていた。
このとき、午後5時。朝から何も食べてなくて、餓死寸前だったため、とろろめしを作って食べた。ものの3分で食べ終わり、食器でも洗うかと立ち上がろうとしたその時…誰もいないはずの部屋の中で、誰かに肩を叩かれた。
初対面の人間の肩に乗るか?普通…
死ぬほど驚いて自分の肩を見ると、ハルが乗っていた。「僕と遊んで?」と言わんばかりのかわいい表情をしていた。初めて会った人間に対してこんな簡単に近寄るとか…もし野生だったら生きていくの大変だろうな…とちょっと思った。
数日間、ハルと一緒に自宅で過ごした
ハルが新しい環境に慣れるまで、長めの有給をとって数日間家の中にこもっていた。といっても毎日ハルは元気いっぱいに遊んでいた。一瞬で我が家に慣れてくれたようだ。
かなり人懐こい性格らしく、ちょっとコンビニに飲み物を買いに行こうとすると、引きとめられた。コートを着た瞬間に外出するとわかるらしく、ニャーニャーとなき始めて、私の足の周りをぐるぐるとまわり始めるのが常だった。しかし食料が底をついてしまうので、買い出しにいかないわけにもいかず、制止をふりきって外に出てドアを閉める。玄関のドアの向こうで、ハルはなきながら扉を爪でカリカリし続けた。(ちなみに、留守番の際、どんな様子なのかをこっそり撮影してみたこともある)。
初めて一緒に寝てくれた
うちに来て3日目の夜、さあ寝ようと思ってハルをケージに入れた。その瞬間、ものすごく大きな声で鳴き始めた。ごはんが欲しい時とか、小さく鳴くことはよくあったが、そんなのとは全く違う鳴き方で、しかも聞いたこともないようなデカイ声で鳴き始めた。
「どっか痛いのか!?」と思ってすぐにケージから出す。するとハルはとたんに鳴きやんだ。「あれ、どうしたのかなぁ」と思って口の中やら目やら心音やらを一応チェックするが、特に異常は見つからなかった。
「変なの…」と思ってまたケージの中へ…。しかしその瞬間、またものすごい声で鳴き始めた。とりあえずケージの中には入りたくない、という意味だと解釈し、「家にも慣れたし、ケージの中で眠らせないでも大丈夫だろう」と、ケージのドアを開けっ放しにした状態で、自分はもう寝ることにした。
歯磨きをして、コンタクトレンズを外し、電気を消して布団に入った。私のその様子を見たハルは、一目散に布団へダッシュしてきた。鼻で毛布を押しのけ、中に入り、丸くなって目を閉じた。「なんだ…私と一緒に寝たかったのか…」とようやく大鳴きの意味がわかった。
この先十何年、一緒にいたかった
我が家にやってきた、天使のように可愛らしい子猫。毎日毎日お世話をするのが楽しくて仕方がなかった。こんな日々がこの先十何年も続くんだと思っていた。しかしそのわずか数カ月後、ハルは難病を患い、たった半年の生涯を閉じることになったのだった。
猫なんか、二度と飼うもんか -1- fin
【その2へ続く】